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4月1日以降、「マルチマルチクレーム」を制限(特許庁)
特許法施行規則及び実用新案法施行規則の一部を改正する省令(令和4年2月25日経済産業省令10号)が公布され、令和4年4月1日に施行されることとなりました。
これにより、本年4月1日以降に特許庁へ提出される特許出願、実用新案登録出願において、マルチマルチクレームが認められなくなりますので、注意が必要です。
<マルチマルチクレームとは?>
日本の特許出願で準備する書類で特許請求する発明を記載する欄である「特許請求の範囲」を米国ではclaim(クレーム)といいます。そして、日本の特許出願での請求項1、請求項2、・・は、米国では、それぞれ、claim 1(クレーム1)、claim 2(クレーム2)、・・・、と記載されます。
そして、先行している複数の請求項に従属する形式の請求項(claim(クレーム))を、米国では、multiple dependent claim(多数項従属クレーム)と呼んでいます。
本年4月1日以降の日本国特許出願において記載が認められなくなる「マルチマルチクレーム」という呼び方は、米国におけるこのような呼び方を参考にしているのではないかと思われます。
特許庁のウェブサイトには次のような特許請求の範囲の記載がマルチクレーム、マルチマルチクレームの例として紹介されています。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/letter/multimultichecker.html
(マルチマルチクレームの制限について 令和4年3月 特許庁調整課審査基準室)
請求項1 Aを備える装置。
請求項2 更にBを備える請求項1記載の装置。
請求項3 更にCを備える請求項1又は2記載の装置。(←マルチクレーム)
請求項4 更にDを備える請求項1~請求項3のいずれかに記載の装置(←マルチマルチクレーム)
上記で請求項3は、請求項1、請求項2を択一的に引用しています。このように「他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項」がマルチクレームと呼ばれます。
マルチクレームである請求項3は、「請求項1又は請求項2」と表現してこれらを択一的に引用していますので、一個の請求項であるにもかかわらず、
①AとCを備える装置(=請求項1を引用する請求項3)と、②AとBとCを備える装置(=請求項2を引用する請求項3) という2個の発明を特許請求していることになります。
次に、請求項4ですが、これは、「請求項1~請求項3のいずれか」を引用する請求項ですので、上述したマルチクレームである請求項3と、それ以外の請求項1、2の中から択一的な選択を行う形式になり、「マルチクレームを引用する、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項」ということでマルチマルチクレームと呼ばれます。
マルチマルチクレームである請求項4は、マルチクレームである請求項3を含めた3個のクレーム(請求項)を択一的に引用していますので、一個の請求項であるにもかかわらず、
③AとDを備える装置(=請求項1を引用する請求項4)、
④AとBとDを備える装置(=請求項2を引用する請求項4)、
⑤AとCとDを備える装置(=請求項1を引用している請求項3を引用する請求項4)、
⑥AとBとCとDを備える装置(=請求項2を引用している請求項3を引用する請求項4)
という4個の発明を特許請求していることになります。
<4月1日以降の特許出願に課されるマルチマルチクレームの制限>
上述したように、マルチマルチクレームである請求項4は、マルチクレームである請求項3を含めた3個のクレーム(請求項)を択一的に引用していることから一個の請求項であるにもかかわらず4個の発明を特許請求して審査を受け、4個の発明について特許権成立させることが可能になります。特許出願人にとっては便利な記載形式といえます。
しかし、特許庁審査官は、マルチマルチクレームが1個記載されているだけで、上述したように、多数の発明について特許性(新規性、進歩性など)を検討・判断しなければなりません。マルチマルチクレームは審査の負担になっているといえます。
また、日本国特許庁が2020年に受け付けた特許出願は約29万件であるところ、中国、米国、韓国特許庁が受け付けた特許出願は、それぞれ、約150万件、約60万件、約23万件で、日本を除くこれらの特許出願大国では、上述したマルチマルチクレーム形式に制限が課されています。例えば、拒絶理由になったり、特許庁へ超過料金の支払いが求められる、等です。このような諸外国の事情も考慮されたものと思われます。
<マルチマルチクレーム制限の概要>
本年4月1日以降の特許出願の特許請求の範囲にマルチマルチクレームが含まれている場合には特許請求の範囲の記載要件違反(特許法第36条第6項第4号(委任省令要件違反))の拒絶理由を受け、マルチマルチクレームの請求項及びこれを引用する請求項については、マルチマルチクレームに係る委任省令要件(特許法第36条第6項第4号)以外の特許要件(新規性や進歩性など)の審査が行われない、という対応がされます(マルチマルチクレーム制限に伴う特許・実用新案審査基準の改訂)。
更に、上述した請求項4の記載でマルチマルチクレームに係る委任省令要件(特許法第36条第6項第4号)違反の拒絶理由を受けた場合で、上述した③、④、⑤、⑥記載のように補正して拒絶理由を解消したときに、審査官が新規性、進歩性、等の特許要件について検討して、この補正が行われたことのみを原因として通知する拒絶理由は、新規性、進歩性、等の特許要件について一回目の検討で通知される拒絶理由であるにもかかわらず「最後」の拒絶理由とされることになります(マルチマルチクレーム制限に伴う特許・実用新案審査基準の改訂)。このため、この拒絶理由に対応するべく特許請求の範囲の補正を行う際には、請求項の削除や、請求項記載の発明の限定的減縮しかできない、等の、最後の拒絶理由通知を受けた場合の特許請求の範囲の補正に課される制限を受けることになります。
また、本年4月1日以降の実用新案登録出願の実用新案登録請求の範囲にマルチマルチクレームが含まれている場合には基礎的要件(実用新案法第6条の2に規定する要件)を満たしていないとして補正命令を受けることになります(マルチマルチクレーム制限に伴う特許・実用新案審査基準の改訂)。
本年4月1日以降に特許出願、実用新案登録出願を行われる場合には、特許請求の範囲、実用新案登録請求の範囲の記載にマルチマルチクレームが含まれることが無いようにご注意ください。
<マルチマルチクレーム検出ツール>
特許庁は、より適切にマルチマルチクレーム制限に対応できるよう、出願人及び代理人の便宜を考慮してマルチマルチクレーム検出ツール(外部と通信することなく動作するため、オフライン環境で利用可能)を提供しています。ご活用ください。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/letter/document/multimultichecker/multimultichecker_ver_1_1.zip
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